なぜ、黒毛和牛だけがあんなにキレイな”サシ”が入るのか
サシは黒毛和牛の特徴。
”サシ”という言葉をご存知でしょうか。これはいわゆる霜降り肉のようなまばらに点在している脂肪分の俗称であります。さて、このサシですが、食用にされている肉は数あれど、キレイなサシが入っているのは牛肉、特に黒毛和牛の肉のみであることに気が付くのではないでしょうか。
実際、霜降り肉という名称そのものが高級な黒毛和牛の代名詞であるとさえ言えますので、霜降りの脂身であるサシは黒毛和牛の専売特許であると考えられます。しかし、鶏肉には霜降り肉は存在していませんし、豚肉であったとしてもそれほどキレイなサシが入ることはありません。
それに同じ牛肉であったとしても、黒毛和牛とそうでない和牛においてはサシの入り方が全く違っており、どのような牛であったとしてもそのサシのキレイさは黒毛和牛には及ばないものです。ではなぜ、黒毛和牛だけがあんなにキレイなサシが入るのでしょうか。
肉質は血統によって決まる。
その理由の1つとして考えられるのは、黒毛和牛の血統です。和牛というのはその肉質を良くする為に、長い歴史の中で様々な牛同士をかけあわせることで品種改良が行われてきました。その品種改良の結果として、最終的に日本には4種類の和牛が存在することとなったのですが、この4種類の和牛のなかで特に良い肉質を身につけるような品種となったのが黒毛和牛だったのです。
特に今日本に存在しているほぼ全ての黒毛和牛は、田尻号というかなり肉質が良く、サシの入り方が良好であった種牛の遺伝子を受け継いでいます。それゆえに、黒毛和牛はそのほぼ全てが遺伝的に脂身がつきやすく、サシの入りやすい身体的特徴を持っていると考えられるでしょう。ですから、黒毛和牛におけるサシの入り方がキレイな理由は、血統で決まっているからと言っても過言ではありません。
飼育方法が特徴的である。
ただ、黒毛和牛のサシがキレイなのは血統の要因だけがすべてではありません。なぜなら、同じ黒毛和牛であっても育成環境が違えば、サシの入り方も違ってくるからです。ですから、黒毛和牛のサシにおいては飼育方法や環境も大きく影響を与えていると考えても良いでしょう。
サシは牛の体の中に脂肪分が行きわたることによって肉に出現します。これは牛が十分に肥育する環境を作るとともに、十分な栄養価を持つ飼料を与えなければ実現できないものです。ですから、黒毛和牛のサシの秘密の1つとしてはそれを育てる畜産業者の努力と技術による面も大きいと言えます。
他の食肉に比べて、脂肪が入りやすいのも特徴。
牛の筋肉繊維は、他の食肉用とされる家畜の筋肉繊維と比べて脂肪が混在しやすいという特徴を持っています。
多くの家畜は筋肉は筋肉繊維のみで構成されているのですが、牛、特に黒毛和牛においては筋肉繊維の間に収縮した脂肪細胞が存在しており、牛が十分な栄養を身体に蓄えるとその細胞に脂肪が蓄えられていき、徐々に大きくなっていきます。この筋繊維の間にある脂肪細胞に充分なだけの脂肪が行き届けば、キレイなサシへと変貌を遂げるのです。
キレイなサシの秘密は血統、飼育、肉質。
これらのことから、黒毛和牛だけにキレイなサシが入る秘密は血統の良さ、飼育方法の工夫、そして根本的に肉質に脂身が入りやすいという三つの理由が考えられることが分かりました。そのような十分なサシが入るだけの3つの条件を満たしているのは黒毛和牛だけであり、それ以外の家畜には存在していません。
それゆえに、黒毛和牛の肉質は他の家畜の食肉や他の品種の牛肉よりも高級であると位置づけられて、国内外を問わず高い評価を受けている肉であるのです。